がもがもミシュガット

この世の全ての物を独断と偏見で適当に採点する!


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告白
告白告白湊 かなえAmazonで詳しく見る by G-Tools


 最愛の子どもを自分の務める中学校の敷地内で亡くしたシングルマザーの教師が、終業式のホームルームで、自分が教師をやめること、そして、事故として聞いていると思うであろう生徒の今回の件は、実は殺人事件で、その犯人は、この中に居るということを話し始める…と言うモノ。

 これだけでも、グイッと惹きつけられる話だと思う…けど、読み出したら、そんなものでは止まらない。朝の会社へ行く電車の中で読み始めたら、もう後が気になって、結局、その日の夜、家に帰ってからも読み続け、その日のうちに読み終えてしまったくらい。

 全6章立てとなっている構成は、この教師の告白から始まり、その後、そのクラスの学級委員長の女の子がその教師へ向けた雑誌への投稿文、犯人である中学生の母親の日記、そして犯人の告白と語り手が変わっていく。他人から見えているものと実像との違い、ほんの少しずつのズレが判明するごとに、言いようのない閉塞感と嫌悪感を与えてくるのである。そう、嫌悪感だ。でも、読み進めたくて仕方がなくなる。そんな小説である。

 冒頭の第一章は、小説全体としてはプロローグ的なものであるのだが、それだけをとっても短編小説としても完成度が高く、第一章だけでも、きっちり完結している。むしろ、他の章の方が、この第一章から考えられたものではないか…というくらい。他の章は、事件のその後が描かれたりもしているんだけど、どこか散文的で、事件を多角的に見えるようなものに過ぎないと読めなくもない…と思ったりもしたんだけど、最終章を読むまでは。

 この作品はミステリではない。前述のとおり、事件の犯人は冒頭で語られるからだ。じゃあ、単純にサスペンスなのかというと「えっ!?」と時折、驚かされる。そもそも、サスペンスと言うのには散文的で、語り手も変わっていく。ただ、語り手が変わるごとに「分かった風で」、それぞれの語り手が相手を見ているのに同調している自分がいて、いざ当の本人が語り出した時、「分かった風」だった自分に嫌悪感が残る。あるいは「告白」という形でありながらも、故意に、または深層心理からくる「自分を良く見せたい」という「ちょっとした虚構」がミスリードを加速させる。

 リアリティに欠ける、ミステリとしては平凡などという意見も見受けられるけど、個人的には、そうは思わない。この閉塞感と嫌悪感に対する好みならまだしもね。読後感は、ハッキリ言って悪い(苦笑)。グッタリと疲れる感じ。この救われない感じがリアリティ(単純に結末だけを指すもんじゃなくて)として感じ取れてしまうのは、よほど社会を斜に構えて見ているから…ではないと思う。本当にそれが人間社会だからだと思う。

 私も人付き合いの中で、人を分析する。これは多かれ少なかれ、無意識のうちにでも全ての人が行っていることだと思う。そして、統計的に「こういうタイプの人間だ」と決めて、その中で対応していく訳だ。でも、タイプ的な行動を続けて取ったからと言って、心理的にその人が「こう思っているに違いない」と判断することが、いかに危険なことなのか。人はちょっとしたことで変わるのだ。特に悪い方に変わるのなんて簡単だ。自己暗示能力も他の動物とは比べ物にならないんだから。

 とにかく、面白いことは折り紙付きだと思う。よほどミステリ擦れしていて、ミステリとしてしか作品を捉えられない人とか、内容に嫌悪感を抱いてしまう人とかでなければ。そんな訳で評価の方は…

 ★・★・★(三つ星)

 …ということで。独白という形なので、非常に読み易いし、あっと言う間に取り憑かれて、ページをめくり続けるんじゃないかと。


gamou [ [ 書 籍 ] 小説 ] comments(0)
一瞬の風になれ
一瞬の風になれ 第一部  --イチニツイテ-- 一瞬の風になれ 第一部 --イチニツイテ--
佐藤 多佳子


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  2007年に本屋大賞を受賞した作品。佐藤多佳子が、神奈川県立麻溝台高校に実在する陸上部をモデルとして描いた陸上競技小説であり、その取材には3年近くを費やしているそうで。本屋大賞になったことにより、漫画化やTVドラマ化もされているので、知っている人も多いだろう。

 非常に分厚い本で、しかも3部作となっているため、一瞬取っつきづらさを覚えるかもしれないんだけど、1部につき高校生活のおおよそ1年間、それを主人公の1人称で語っているので、読みやすい。高校生の運動部男子らしく…と言おうか、運動描写のリズム感を出している…と言うのか、一つの文節が短くて、言葉が重ねられていく。正直なところ、読み始めた時は、その薄っぺらく感じられる言葉にイラッとしたんだよね(^_^;)。なんかただ、読みやすさと親近感だけで、受けが良かったんじゃねーの…みたいな(苦笑)。全然、作者のことも知らなかったし。

一瞬の風になれ 第二部一瞬の風になれ 第二部
佐藤 多佳子


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 で、実は第一部を読み終えた後に、以前、ブログで書いた「しゃべれどもしゃべれども」を読んだり訳で。詳しいことは、そちらのエントリーを見てもらうとして、「しゃべれども…」も主人公の1人称で描かれているんだけど、「一瞬の風になれ」の主人公とは全く違う昔気質な若者が、べらんめぇ調で語るという設定。しかも「しゃべれども…」の方が、過去に書かれた作品と言うことで、「なるほど、この作者凄いんだ」と納得したんだよね(^_^;)。だって「一瞬の…」の方の主人公は「筋肉脳っぽいなぁ」って思う文章なんだもん(笑)。もちろん、そういうスポーツマンへの憧憬込みでの感情だけど。

 そんな訳で、全く第三者の視点無しで高校の陸上競技生活3年間が描かれた作品なんだけど、前述のような文章の読みやすさもあって、それこそ風のように3年間の高校生活を追体験できる感じ。であるとともに、一流と呼ばれるアスリートたちの超人的な練習を知ることも出来る。分かることは出来ないけど。どう頑張ってもン百回の腹筋とか、腕立てとか出来そうにないからねぇ。でも、その10分の1の辛さを思うと知識の範囲で「スゲーな」と思うということで(^_^;)。

 でも、絶対に到達できない世界だからこそ、その人たちにしか感じられないスポーツにおける「ゾーン」的な世界を、小説という形で垣間見ることが出来るのは、素敵な体験である。3年に渡る取材によって得ているのであろう高校生たちの短くも生々しい言葉の積み重ねによって、非常に感覚を同調させやすい。マンガなどでも描かれたりすることはあるけど、そもそもが抽象的なものであるため、それが絵という形でハッキリ現れると、同調するというよりは、第三者として眺める気分になってしまうんだよね。その点が小説との違い。

一瞬の風になれ 第三部 -ドン-一瞬の風になれ 第三部 -ドン-
佐藤 多佳子


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 話の大筋としては、最近の少年スポーツマンガの王道のような作品ではある。そんな中で、スタープレーヤーであるサッカー選手の兄とともに歩んできたサッカーの世界を捨て、陸上の世界に入ったことへの苦悩みたいなものが、全編を通して主人公の心に棘のように刺さっているのが本に深みを与えているのかもしれない。ドロップアウトした自分。ここでもドロップアウトするのではないか…という恐怖。一方で、ここではやれるのではないかという期待。必要とされる喜び。それらが、回りくどい言い回しを抜きに飛び込んでくる。

 …とは言え、時折、作者の文章の巧みさには驚くんだよね。前述のとおり、いかにもスポーツ一直線の純朴高校生の語り口な訳だ。目で見たことを、そのまま友達に語っているかのような文章…なんだけど、もちろん、実際にはそれだけでは小説は成り立たない。リアルさを追求すればするほど、小説にならないだろう。「しゃべれども…」のような口が達者な主人公ならともかく。そこで「本当ならこんな表現使わないよな…」と良く読まないと気が付かない文章表現を、上手いこと滑り込ませてくる作者の力量があると思う。そんな訳で評価の方は…

 ★・★・★(三つ星)

 …ということで。多少爽やか過ぎて、個人的には「しゃべれども…」の方が好きかもしれない。陸上ものなら三浦さんの「風が強く吹いている」の方が好みではある。でも、名作であることには違いない。先日、北京五輪でリレーチームが銅メダルを取った時、この小説が頭に浮かんできたんだよね。40秒足らずの世界で、色んな声が聞こえるような気がしましたよ。


gamou [ [ 書 籍 ] 小説 ] comments(2)
有頂天家族
有頂天家族有頂天家族
森見 登美彦


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 「夜は短し歩けよ乙女」の森見さんが、またしても京都をファンタジーワールドにしてしまった作品である。俗っぽい言い方をすれば、前作がジブリアニメの「千と千尋」的というならば、今回は「平成たぬき合戦」なのだ。…というか、まんま狸が主人公なんだけど(^_^;)。

 狸格ならぬ人格を有している狸たちが、京都を普通に人の姿に化けて闊歩し、同じように天狗も天狗同士で勢力争いを繰り広げている京都。天狗は狸たちの先生として、人間を化かす方法を教えている。天狗は天災級となるイタズラを行い悦に入り、狸は化けて人間を驚かして遊んでいる。知らぬは人間ばかりなり…とも言うべき話だ。

 狸界のリーダー的存在だった偉大なる父の死の後に残された家族は、器もないのに父の後を追う長男、引き籠もりの末に狸であることをやめてしまった次男、頭は切れるがハスに構えてちゃらんぽらんな三男、まだまだ子どもで臆病な四男、そして息子たちを溺愛する親バカな母親という家族だった。主人公は、この三男で、自分のせいで凋落した頑固者の天狗の師匠の世話をしている…もちろん、どちらも人間の姿を借りて京都の街に溶け込んでいる…というのが、物語の設定である。

 そして、人間であるにもかかわらず天狗の修行を積み、半天狗となった美女が加わることで、物語は複雑な様相を呈していく訳なんだけど、基本的には章ごとに短編が連続している形が取られている。これは雑誌の掲載をまとめた形となっているからで、話を最後まで読んでみた感じでは、まだまだこの舞台設定を使った物語は続いていくのではないかと思われる。章が変わるごとに、とりあえず簡単にでも、人物紹介的なものが繰り返されるし。ただ、その中にも、主人公の父親の死の謎が、物語が進むごとに明らかにになっていき、一冊の中で父の死の謎にまつわる大きなうねりが完結する形となっている。

 至って人間的な思考をとりつつも、死生感などは狸であるが故(?)に、飄々としたものをもっているのが、またファンタジー感に一助している感じ。死生感が重くないが故のバカバカしさ…というか、力の抜け具合が、物語に爽快感を与えているのは間違いない。いや、本当の狸の死生感なんて知らないけどさ(^_^;)。だからこそ、敢えて、人間である我々からは、狸たちに声援を送りたくなるし、感動もしたりする訳だけど。

 こういう作品になると、狸の側から見た人間社会の愚かしさ…というような話になりがちではあるけど、そういう説教臭さはこの作品からは全く感じない。説教臭いのが悪い訳じゃないし、この作品としても、ゼロではないとは思うのだが、「夜は短し歩けよ乙女」を彷彿させる(同じ作家だから当たり前だけど)流暢な筆致と、小さい物語の背後でつながっていく大きなストーリー、そしてホロリとさせられる家族愛。屈折した師弟愛など、ココロをホッとさせてくれる味わいもある作品だ。

 しかしながら、前述のとおり、おそらく今後も巻を重ねると思われるため、謎のまま終わっている部分も多くて、最終的な判断は完結後なのかもしれないけど、とりあえず評価の方は…

 ★・★・☆(二つ星)

 …ということで。いや、面白いんですけど。最初に続巻があるのを知らないと、随分と中途半端な形で終わるなぁ…という印象を持ってしまうのが、どうもマイナスな印象がありまして。前述のとおり、完結までいってからの評価だとは思うんだけど、今の段階では「夜は短し歩けよ乙女」の方が、評価が上かな。あの作品、かなり好きなんで(^_^;)。

gamou [ [ 書 籍 ] 小説 ] comments(0)
ホームレス中学生
ホームレス中学生
 現代日本において、中学生が家出で…ではなく、貧窮の果てにホームレスとして公園に住むということなんてあるのだろうか。多くの人が、麒麟の田村くんの話を聞いて思ったに違いない。笑いのエピソードとして語られることが多かった訳だけど、作り話にしては中途半端なリアリティが、そこには存在していた訳で。だからこそ、この本が出版されると聞いた時に、多くの人が飛びついたのだろう。

 「解散」という言葉とともに、子どもを置いてトンズラ。なんと酷い父親なのか…と本を読む前は思ったものだが、そこには運命的なものに振り回された家族の姿があった訳で。バブル崩壊後、有り得なかった話ではないのかもしれないが、経済的な崩壊に、物理的・肉体的な崩壊が続けば、精神的に壊れてしまうのかもしれない。そこが、田村くんの文章的な拙さがあるのかもしれないが、スラッと書かれているところに、この本の秀逸さが隠されていたりする…と思う。

 お笑い芸人としての視点から面白いエピソードを中心に、自分の思いの強さを基準とした話の展開になっているのがストレートに文章に出ているので、父親としての葛藤に対する考察などは、ほとんどない。それが語られるのは、父親に対して何も怒っていないから、帰って来て欲しいことを伝えたかったからだ。同様に母親や、助けてくれた人たちへの思いが、何にも飾り気の無い言葉で語られている。ホームレス時代(およそ中学の夏休み期間1ヶ月ほど)が特にクローズアップされている訳ではなく、あくまでも自叙伝の一エピソードに過ぎない。

ホームレス中学生コミック版
 「ホームレス中学生」という言葉に期待をもった人々は、もっとシティサバイバル的な部分を詳細に聞きたかった訳で、「期待はずれ」「中途半端」などと言う言葉も聞かれる。…が、それは田村くんのせいではなく、出版側の戦略の勝利だろう(^_^;)。田村くんは、ただ淡々と自分の半生を振り返っただけなのだ。端々にアホの片鱗が見え隠れし、少々イラッとする場面(ちょっと金回りが良くなると、兄姉の苦労を顧みることなく使いきったり…とか)もあるが、それも家族の温かさにつながっていくのである。

 さて、ここまで好意的な目で紹介してきたが、本としての読み応えはない…と思う。読みやすい…というだけではなく、本としての面白さは少ない。その境遇に対して、そして現在の作者の明るさを見て、好意的な目が向けられている本だとは思うが「徹子の部屋」辺りに出て、あるいは「人生は波瀾万丈」辺りに出て、口頭で話せてしまう内容で、「本だから」というべき作品ではない。もちろん、だからこそ、ここまで売れた…という側面もあるのかもしれないけど。

 ここから先は、妬みに近い話にもなるのだろうが、200万部の作品か…と問われると、それは疑問である。これが幾多のタレント本の中に埋もれた作品であったとしたら、そこらのしょーもないタレント本から比べれば遙かに良作と…と称えられるべきものかもしれない。が、これを「感動の大作」とまで持ち上げる気にはならない。ぶっちゃけて言えば、どうしてもホームレスにならざるを得なかった訳ではないからだ。家族ひとり一人が、選択ミスをした結果なんだよなぁ…。

 とは言え、田村くんの方も別に「感動巨編を書いてやろう」というスタンスで臨んでいる訳ではないので、責められるべくも無い(^_^;)。「シティサバイバル」も「感動巨編」も読者側の勝手な期待でしかない訳だからね。そんな訳で、評価の方は…

 ★・★・☆(二つ星)

 …ということで。こんだけ売れてれば、身の回りの人が持ってるはず(^_^;)。数時間で読める…し、サバイバル的な部分だけなら30分でも大丈夫(苦笑)。期待通りのものであったら、購入するでも十分かと。わりと良作のタレント本…というスタンスで臨んだ方が良いかなと。

gamou [ [ 書 籍 ] 小説 ] comments(0)
風が強く吹いている
風が強く吹いている風が強く吹いている三浦 しをん Amazonで詳しく見る by G-Tools

 今や国民的な行事と言っても良いスポーツイベントの一つに「東京箱根間往復大学駅伝競走」がある。通称、箱根駅伝である。出雲駅伝、全日本大学駅伝とともに男子の3大大学駅伝とされていて、その3大駅伝の中でも最も人気が高く、ここを目指して多くの大学が調整を進めてくる訳だ。…にも係わらず関東学連加盟大学しか出られないというローカル大会なんだけど(^_^;)。

 それはともかく、そんな箱根駅伝を描いた作品が本作だ。「まほろ駅前多田便利軒」で直木賞を受賞した三浦しをんの作品である。「まほろ駅…」の方のエントリーでも書いている通り、ちょっとアウトローとか裏世界の話だったので「キャラ作りは、面白いな」と思っていたけど、作品自体を好きになりきれなかった。しかしながら、この作品ではなんと言ってもテーマそのものが、私の大好きな箱根駅伝である。これは読むしか…というか、これが読みたいがために、先に「まほろ駅…」を読んだと言うのに近いんだけど(^_^;)。

 内容を簡単に言えば、ある一人の大学生が無理矢理集めた、ほとんど経験者のいない駅伝チームで、箱根駅伝を狙う…という内容である。少年誌の野球マンガなどでは、割と良く見るパターンだったりする訳だよね(^_^;)。内訳としては怪我をしてドロップアウトした陸上選手(首謀者)、才能はあるけど勝負偏重の部活がイヤでドロップアウトした元陸上選手、才能の無さに気づいて陸上をやめた留年続きのニコチン中毒、マンガオタク、クイズオタク、元サッカー部の双子、司法試験に現役合格した秀才、「ただの」黒人留学生、田舎の山育ち…と、完全に「烏合の衆」という言葉がピッタリな集団だ。

 ちょっとでも箱根駅伝を知っているなら、困難を通り越して絵空事以外の何物でもない…ということは分かると思う。挙げ句、素人ながらも「やりたくて始める」という訳ですらない。日々、彼らの生活の世話をしてきたことを盾に、やらせようとしているだけ…なのだ(^_^;)。当然、やらされる方もたまったもんではない訳で、首謀者である人間以外は不平不満を言う訳だ。それが、挑戦する年の春のこと…という始末(^_^;)。どー考えても無理じゃないか…って話なのだ。

 しかし、そこをアメとムチとを使い分け、個々のやる気を失わせず、根気よくタイプの違った陸上選手へと育て上げていく首謀者。体力的な話ではなく、陸上をやる者としての精神的な才能と適正を見抜いた上でのスカウト活動だった(?)と言えなくもなく(微妙)、それが変化に富む10区間に分かれた箱根駅伝の各コースの適正に合致していく様は、なるほど…と思わせる。絵空事だとは思いながらも、なんとなく納得しながら読んでいってしまう。

 さて、一般的にチームものを描く際には主要人物は5人くらい、あるいは5人までのグループだと描き分けがしやすい…と言われている…と思う。ところが、この作品では10人それぞれの個性が描き分けられていて、前述したとおり、箱根駅伝の各区間の特徴と重ね合わされることで、最終段階に来て一層明確に個性が際立ってくるという構図となってるんだよね。もう、見事としかいいようがない。

 それは集団競技で、絆や団結が大きく結果に寄与するものでありながら、競技中は非常に孤独で内面的な闘いとなる駅伝において、競技中は独白的な台詞が多くなるからだけど、目に見えている描写によるキャラクターと、独白時の個々の想いとの間にギャップがあることも多く、それがまたキャラクターに深みを与えているのだ。

 そんな中、一番影が薄いと思っていた「キング」という人物が、最後に来て私の胸をチクリと刺していった。これは非常に個人的な感想なんだけど。キングという人物が自分に近いから(苦笑)。好きになれない…というか、唯一物語に居ても居なくてもいいんじゃねーの…と思ってみていた訳なんだけど、ま、それだけにショックも大きかったという訳で。涙なくしては読めない感じ。

 もちろん、それ以外にも涙を流してしまうシーンは多いし、人それぞれに思い入れるキャラクターも違うかもしれない。ただ、それが全て明るさと、ひたむきさと、前向きさによって形作られているもので、読み終えた後も、ただただ清々しいのが最高なのだ。ここ数年でも最も好きな作品となったと思う。何度も言うけど、絵空事であり、綺麗事過ぎるのも分かっている。分かっていながらも、何かこうあって欲しい。現実であって欲しいと思う何かがある。陸上経験者も「ふん、絵空事」 などと思わず、陸上をやっていたからこそ感動しているのではないのだろうか。…というか、そう思いたい。

 人間の暗部をエグるように描いた作品ばかりが「重厚な人間ドラマだ群像劇だ」ともてはやされるのは好きじゃない。「まほろ…」でも感じたことだけど、多少キャラクター作りがコミック的であったとしても、そのことが作品自体の価値に影響を及ぼすことなんて、全くないと思う。私なんて、圧倒的に性悪説を支持する人間だけど、だからこそ胃の底にズンと来るような作品は好きにはなれない。だって、分かり切ってることだもの。そんなこと。フィクションにまで希望を失いたくないんだよね。 そんな訳で評価の方は…

 ★・★・★(三つ星)

 …ということで。10点満点時代でも、満点をつけていたと思う。それくらい好き。んな訳で、500ページ超の作品を1日で読んでしまったんだよね。箱根駅伝好きは、絶対読むべき。そうでない人にも、読んで欲しいけどね、もちろん。ただ走るだけなんてさーって言う人も(実は俺のことだ)、なんか走り出したくなる…そんな作品かと。

gamou [ [ 書 籍 ] 小説 ] comments(0)
評伝シャア・アズナブル 《赤い彗星》の軌跡
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評伝シャア・アズナブル 《赤い彗星》の軌跡 下巻 (KCピ-ス)評伝シャア・アズナブル 《赤い彗星》の軌跡 下巻 (KCピ-ス)皆川 ゆか Amazonで詳しく見る by G-Tools

 「シャア・アズナブル」言わずとしれた「機動戦士ガンダム」シリーズの陰の主役である。全然、ガンダムのことに詳しくなくてもシャアなら知ってるという人も多いのではないだろうか。「3倍早い」「赤い彗星」「シャア専用」「坊やだからさ」(笑)など、ガンダムのことは良く知らないのに、なんとなくこんな言葉だけは知っている人も、また多いに違いない。

 そんな訳で「シャア・アズナブル」という人物の評伝である。「評伝」とは、筆者が対象の人物の評価を加えながら書かれる伝記だ。架空の人物で評伝というのもおかしな話なのかもしれないが、それほどまでにシャアという人物は日本人の中で共通項的な人物なのだろう。なんかビジネス書としての評価もあるそうだし(苦笑)。…とは言え、シャアを全く知らない人が、これ以降の文章を読むとは思えないので、シャアについての概略は書かないけどね(^_^;)。

 さて、「評伝」という形をとってはいるが、別にスタイルとしてもシャアの没後に書かれた…というような体を取っている訳ではない。非常に客観的にTVシリーズや映画版のストーリーから、シャアという人物を紐解いている。シャアの台詞、特に名台詞と呼ばれているものは、独白の形を取ることが多いため、人から伝え聞いた…とか、残っている文献から…とか、ってのだけでシャアの人物評を作ると、それはそれで面白いかもしれなけど、シャア本人には迫れないから仕方の無いところか。

 実は、シャアという人は、初代の「ガンダム」→続編の「Zガンダム」→映画版の「逆襲のシャア」という形で出ている訳なんだけど、多くの人から「Z」と「逆襲」のシャアについては、あまり評価をされないことが多い。この辺、シャア・アズナブルの声優として知られている池田秀一氏の著書「シャアへの鎮魂歌」において、池田氏からも「あのシャアは…」みたいな見解が出されているくらい否定的な意見が大勢を占めていると言える。
シャアへの鎮魂歌 わが青春の赤い彗星シャアへの鎮魂歌 わが青春の赤い彗星池田 秀一 Amazonで詳しく見る by G-Tools


 と言うのも、ガンダムの制作総指揮の富野監督の精神状態…というか、業界に対する叫びというか、そういうものが色濃く反映されている…というのは、かなり周知の話で、結果、シャアが堕落した人物になってしまった…と感じている人が多いこともあるのだ。そのことへの自覚が、近年の「Zガンダム」の映画化に繋がっていることもあるしねぇ…。

 でも、そんな中この作品は、とりあえず富野監督の精神世界の反映…という制作者サイドからの観点は一切考慮に入れず、シャアという人物の行動や台詞を、物語の中から非常に客観的に分析することによって、3つの作品におけるシャアを綺麗に一本の線につなげることに成功しているんだよね。私個人としては、別にシャアの変遷に「大人って、そういうものだよね。別に違和感ないけど」などと思っていたりしたんだけど、改めて、こういう形で読んでみると「なるほど」と思うことが非常に多かったと思う。

 非常に良く言われる「ララァは私の母になってくれるかもしれない…」の台詞から「マザコン」。ミドルティーンの女性と親交が深くなるパターンが多いことから「ロリコン」。…などと(^_^;)、冗談半分で非常に不名誉なことを言われることも多かった訳だけど、その辺のことについても、作品の流れの中で、納得のいく結論を出してくれているんじゃないかな…という訳で、評価の方は…

 ★・★・★(三つ星)

 …と言う訳で。実は、シャア論自体よりも、シャアを通して見た他の登場人物の人物評が非常に面白いってのもあったりして。特にアムロの立ち位置が、シャアを通して見ることで、非常に明快に分かる感じがしたね。ガンオタはもちろん(笑)、ガンダムファン…くらいの軽い人も是非とも読んで世界観への理解を深めていただきたい…と、いう本でございますよ。

gamou [ [ 書 籍 ] 小説 ] comments(0)
まほろ駅前多田便利軒
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 第135回直木賞を受賞したこの作品は、少年漫画誌のような今風の挿絵なんかもあったりして、文体などもライトな感じで読みやすく、登場キャラクターも個性が強くて、色んな意味で分かりやすい間口の広い作品である。

 「まほろ市」という架空の街が舞台となっているが、見る人が見れば、完全に東京都の町田市をモデルにしていることが分かる。町田は、小田急線とJR横浜線が交差するターミナルであると同時に、都心部のベッドタウン的な役割もあり、一方で沿線に大学が多いことから学生が非常に多い若い街でもある。その辺の雑然とした感じが「便利屋」という職業と、それを取り巻く個性的な人々にリアリティを与えている…と町田を知っていると思うかもしれない。そうでない人にとっては、「まほろ市」はモジリではないが、ファンタジー的な世界に感じることもあるんだろうなぁ。

 実は、私も大学時代は町田で乗り換えをして大学に向かっていたこともあり、ある程度の雑然とした空気は知っているつもりなんだけど、再開発が一段落して現在の状況になってからは、治安の観点から言うと、あまり良い方向には行っていないなんてことも聞いているので、こんな状況もさもありなん…なのかな…と。

 まぁ、そんな町田論はともかく、物語の方は名前のとおり、便利屋という職業を営んでいる男二人の物語で、様々な依頼を受ける中、主人公たちの過去や苦悩が明らかになっていくという構成になっている。街の暗部や、家族の暗部…と言ったドロドロした部分も、読み易い形で書かれていて、「軽すぎる」なんて書評もあるけど、そーゆーものを重くなり過ぎず、むしろ軽く書くことが出来る手腕みたいなものを買われた受賞なのかもしれない。

 軽いからと言って、気持ちが伝わってこない訳ではなく、逆にその軽さとか、明るさが、一層チクリとした痛みを残していたりする場面もあるからねぇ…。登場人物たちは、いろんな意味で大きく欠落してしまっている部分がある人ばかりなのに、誰もが奥底で温かい心を持っていることから、何かどこかに希望をもてるような後味を残すことに成功しているしね。決して、一つ一つ見ると状況が良いようには見えないんだけど(苦笑)。

 ただね、やっぱり、絵的なものを想像した時に、ウググ…と思うシーンが多いのは確か。題材が題材だから仕方がないんだけど。とは言え、私なら本来そーゆー題材を扱ったものは読まないので(^_^;)、読ませただけでも、ある意味手腕なんだろうね。…という訳で評価の方は

 ★・★・☆(二つ星)

 …ということで。読んで損する本ではないと思います。ただ、やっぱり、そんなに題材が好みではないので…という訳で。

gamou [ [ 書 籍 ] 小説 ] comments(0)
鹿男あをによし
鹿男あをによし鹿男あをによし万城目 学 Amazonで詳しく見る by G-Tools


 「鴨川ホルモー」で衝撃(笑撃?(^_^;))的なデビューを果たした万城目学の第二作目が、この「鹿男あをによし」だ。もはや題名が全てを語っているとは思うけど、舞台を京都から奈良に移し、珍妙な万城目ワールドが作られている。ちなみに「あをによし」は奈良にかかる枕詞だ。

 大学の研究員として行き詰まってしまった主人公が、奈良の女子校の臨時教員として派遣され、そこで珍妙な事件に巻き込まれていくというもの。日本の神話などをベースにおいて、物語を展開させつつ、ちょっとした恋愛模様を絡めていく形は、題材こそ違えど、前作の「鴨川ホルモー」と非常に良く似ている。

 ただ、前作が「ホルモー」という言葉に対しての興味で、ずっと引っ張っていきながら、現実と幻想の交差する奇妙な世界を見せていくのに対して、今回の作品は多くの日本人が慣れ親しんでいる…と思われる、民話や神話をベースに起きながら、「神話は空想の世界じゃない!」という、ある意味ファンタジーの王道をゆく作品であり、ミステリー風味な仕上がりになっている。「ミステリー風味」としたのは、別に犯人捜しをするのが、この小説の面白さじゃないからで、そこに力点をおいている訳でもないから。あくまで風味なのだ。

 その分、「鴨川ホルモー」のような破天荒さ…というか、型をすっ飛ばした荒々しい面白さ…という点においては譲るかもしれないけど、説得力(いや、まぁ、こういう話に説得力ってのも無いのかもしれないけど)は増しているし、ニヤリとさせられる部分も多いのかもしれない。

 また、ヒロイン役となる女子高生は、ビシッと現在のヒロインの主流の1つであるツンデレを押さえていて(笑)、なかなかに魅力的。前作のヒロインがツンデレかどうかは微妙なとこだけど、作者はこーゆーヒロインが好きなんだろうね(^_^;)。個人的にもヒロインには惹きつけられましたよ。少年漫画のような、どこかくすぐったい爽やかなヒロインとのエンディングも、前作同様、読後感は良好だ。

 とは言え、やはり大枠は前作のテイストに近すぎて「この人って、こーゆーのしか書けないのかな?」と読みながら危惧しちゃう(まぁ、大きなお世話なんだけど)のが、欠点と言えば欠点。ただ、この流れで来るのであれば、もうこのテイストで3部作にするしかないんだろうなぁ…ということで、評価は

 ★・★・☆(二つ星)

 …ということで。このテイストで2作続けられちゃうと、どうも2作目が軽く感じちゃうのは、読者の勝手なんだろうけど。これ単体で見たら、楽しいエンターテイメント作品だと思いますね。

gamou [ [ 書 籍 ] 小説 ] comments(0)
夜は短し歩けよ乙女
夜は短し歩けよ乙女夜は短し歩けよ乙女森見 登美彦 Amazonで詳しく見る by G-Tools


 先日、第20回の山本周五郎賞を受賞したことが記憶に新しい作品。京都を舞台にした懐かしくも新しい、なんとも不思議な世界観を持っている奇天烈な恋愛小説である。

 不思議な雰囲気を持ちながら、自分が取るに足らない人間だと思いこんでいる「黒髪の乙女」と、それをストーカーのように追う大学の「先輩」。「乙女」と「先輩」の一人称で語られる文体が交互に繰り返され、恋愛小説のようでありながら、京都を舞台にして起こる不思議な出来事を2つの視点から見せる仕掛けなのが巧みなのだ。

 京都という舞台と、学生の頃に読まされた近代文学のような文体から紡ぎ出されるファンタジーワールドに、あっと言う間に引き込まれてしまう。物語そのものに大きな仕掛けはないし、どちらかというとスラップスティックな作品なんだけど、この空間に身を委ねることの気持ち良さを感じるのだ。しかも、この主人公とも言うべき二人の名前が分からないことで、その他の個性的な登場人物が、より浮き立って見えるのも、小説の世界観の中に浸る助けになっていると思う。

 以前「鴨川ホルモー」という作品について書いたことがあるが、京都という場所は和製ファンタジーにピッタリな場所なのではないかと思う。確かに今となっては、単なるビル街となってしまっているところも多く、単純に景色から想起される神秘性では他の場所の方が勝っているかもしれない。しかし、これが文学になった際の「京都」という場所となると、なんとも言えない神秘性が漂うんだよね。その上で、この作品では文章の巧みさが、その神秘性のみに寄りかからない面白さを産み出しているのだ。

 私は、あまり重たい作品が好きではない。もちろん感動のあまり号泣し、大きく胸を打つ作品は素晴らしいと思うのだが、どちらかと言えば、読み終えた後に心地よく眠りにつける作品の方が好きなのだ(^_^;)。そう言った意味で言えば、その方向性の作品としては、ほぼ満点に近い出来なのではないだろうか。そんな訳で、評価の方は、もちろん

 ★・★・★(三つ星)

 …ということで。ジブリ作品の「千と千尋」のような摩訶不思議な世界観が、日常生活の中に織り込まれるように現れる楽しさと興奮に身を委ねながら、可愛らしい恋愛模様の行方を微笑ましく見守る…そんな小説だ。好き嫌いが分かれる作品(特に文体がねぇ…)なのかもしれないが、是非とも読んでいただきたいところだね。

gamou [ [ 書 籍 ] 小説 ] comments(0)
【7点】 闇の底
闇の底闇の底
薬丸 岳


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 幼女に対する性的衝動から起こる暴行・陵辱事件や殺人事件を犯した人間が、猟奇的に殺されていくという推理サスペンス小説が、この「闇の底」である。この「闇の底」の面白いところは、犯人の一人称でのパートと、それを追う刑事たちのパートで分かれているところだろう。この一人称で語っているのは、登場人物の誰なのか…大きなヒントが与えられているかのようで…というのがミソだ。

 サスペンスとしてのトリックは、何も考えずに読んでいる人は2回、推理しながら読んでいる人でも1回は驚かされるのではないか…というもの。前述の小説ならではの仕掛けが上手いこと効いている。おそらく、小説自体はトリックからの逆算なのかもしれないなぁ…。 とにかく、この文章の仕掛けが、この小説の魅力であることは間違いない。

 そのトリックゆえに、最後に犯人が分かった後、もう一度、最初から犯人の行動を追ってみたくなる。結局、犯人は、本当は闇から救われていたのか、それとも最後に犯人が刑事に言い放つ台詞の通り闇の底から出ることが出来なかったのか…。常人には理解が出来ないその感情は、現代の病巣という簡単な言葉で片づけてしまって良いのか、それとも常人が持つ感情の中でそれが治癒されていくことがあるのか…。

 読み直してみると、どちらとも取れて、それがどうしようもないドス黒い感覚を残していく。おそらく題名から考えると、犯人は救われていなかった…と考えるのが妥当なのだろうが、そうであって欲しくない…という感情が困惑を大きくするのだ。漫画「デスノート」と同様に、法の限界と、正義とは何か…を問いかけてくるのだが、どこかスッキリしないラストが、ある意味リアルかもしれない。

 ただ推理サスペンスのトリック上、仕方のないところではあるのだが、全体的に心理描写が希薄な感じを受けたことも確か。終幕のシーンをもっと厚くして、その辺を補っても良かったのではないだろうか。テーマがテーマなだけにね、もう少し掘り下げてくれても良かったというような気がするんだけど。さすがに、入り込み過ぎると重すぎるし、グロ過ぎるのかもしれないけどね。

 文体は読みやすく、テンポもあって、あっと言う間に読める。時間がある時に、スピード感に任せて一気に読んでしまいたい作品なのではないかと。

gamou [ [ 書 籍 ] 小説 ] comments(0)
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